俺と葉月の四十九日
このまま安田を乗せて、宿命から逃げようか。
運命から逃げようか。


サヨナラを言いに行く、安田は覚悟を決めているってのに、俺は逃げる事しか浮かばねぇ。



…好きだと、伝えたらどうなる。


安田が好きだ。

そう伝えたら、安田はどうするだろうか。


考えて頭を振った。
ダメだ…それは重い。
伝えないままにすると決めた。

安田が死んでから気付いた気持ちじゃねぇか。

そんな情けない気持ちを伝えるのか?


二度と会えない別れなのに、そんな情けない事…言う資格ねぇ。


情けない自分だけは、悔しい程認めてる。
だから逝くなとも言えねぇ。


安田を不幸にする。


安田が生きていたなら、いくらでも言えた。

大切だ…一緒に居よう…好きだ…。
手を繋いで、抱きしめて、その存在を体温として確かめる事もできた。


今となっては、無い物ねだり。



「ここで降りる」

国道の交差点。信号待ちの間に安田はチャリから降りた。

「バイト頑張ってね!」

笑い、手を振る安田。
チャリにまたがる俺に背を向ける。


…身体、かなり透けてきてるな。

もうすぐ安田は消える…俺には姿が見えなくなる。
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