俺と葉月の四十九日
結局俺は安田のしおらしい作戦に引っ掛かり、こうして映画館へと向かっている…。


「なんかイイ感じ〜♪青空♪海♪…」
安田は、かなりの上機嫌でオレンジレンジを熱唱中。

悔しい…何か納得できねぇ。

そりゃ安田はいいかもしれねぇけど、騙された俺は後味悪いっつーか…。


「はい!次圭ちゃん」
「はあ?」


マイクをバトンタッチする仕草で、俺に手を差し出してくる安田。
やだよ。


「つか、安田って音痴だよな?」


そう、安田は音痴だ。

リズムが取れていればいいと思ってるのか、音程がめちゃくちゃ。
半音下がり、半音上がり…まるでジェットコースター並の激しさだ。


音痴にも程がある。


安田は不本意だと言わんばかりに目をつり上げた。

「何で圭ちゃんは音痴って言うの?音痴じゃないよ!」
「お前、自分で気付かねぇ?」
「圭ちゃんだけだよ!音痴言うの」
「あまりにひど過ぎて、言うのためらうんじゃね?」


自覚がねぇのも考えものだ。
まぁ今歌ってたって、俺以外に聞こえねぇだろうけど。


「圭ちゃんの言い方の方がひどいじゃん」

ブツブツ言ってる。


それでもまだ歌い続ける安田は、かなり神経太いよ。
< 73 / 267 >

この作品をシェア

pagetop