―偽愛―



広海は病院を退院した



その次の日 俺は家に戻った

俺の家は広海の家から 山を挟んだ反対側にある

電車で四つほど駅を越せば 駅からは歩いて5分ほどで 俺の家だ…


広海の事は心配で仕方ないけど 母ちゃんから言えば、全然部外者の俺…広海のそばに居たくても 俺が居る事はおかしい




ピンポーン ガチャ



小さなアパートの一階

こんな田舎では なかなか珍しい、わりとキレイなアパート


ここが俺の家



嫁は カギを開けると、すぐさま部屋に入り 俺の顔さえ見ようともしない


“パパ”


小さな手で 俺のズボンにしがみついて、抱っこしろとせがむ


“竜太…ただいま。”

竜太は 首にギュッと抱き付く



“紗恵…話しがあるんじゃけど…”


“……なんの話し?私は何も話す事なんて…ないわ”


“別れて欲しんだ”

“良いわ。だけど…竜太はアナタに渡さない…”


“分かった…離婚届は、俺が取りに行くよ…”


“でも…アナタ。あの娘のそばに居るんでしょ。…なら私が取りに行くわ”



それから 俺達は冷静に淡々とこれからの事を話した




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