―偽愛―


家に着き 少し疲れたアタシは久し振りに自分の部屋に戻った


海翔の居た 隣りの部屋はもう誰もいない


アタシは自分の部屋の網戸を開けて 窓枠に座って煙草に火を点けた



久し振り…



ただ 変わらない海の波の音と アタシの好きな風鈴の音


…そろそろ 風鈴取らないと…






ガラガラ


アタシの部屋のドアが開き オカンが入って来た

オカンは珍しく 正座して座り アタシに《ここに座り》と目で訴える



アタシは 火を点けたばかりの煙草を消し オカンの前に同じように正座して 座った



少しの間 沈黙




オカンはため息混じりにこう呟いた

“広海…アンタ…記憶戻っとんやろ…”



やっぱり…バレてたんだ…



“ごめんなさい…オカン”


“いつから?…いつから記憶が戻っとん?…海翔くんは知っとんか?”


“海翔は 知らん”


“ええんか?嘘ついとって?”


“もう少しだけ…嘘つかせといて。海翔はアタシじゃあ幸せになれん。だから…家族の元に海翔を帰すまで…嘘をついときたいんじゃ……お願い!オカン だから、黙っといて”


“……分かったわ。アンタがそこまで考えとんなら、黙っとくわ”


“ありがとう…”


“よう決心したな…広海”


“好きな人には幸せになってもらわんとな”



オカンは少し淋しい顔をして、だけど とても優しい顔をして アタシの部屋を出て行った



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