―偽愛―




ホームに電車が入り ドアが開く



海翔が電車に乗り込む


ああ…もう この細い薄っぺらな背中を見る事は ないんだ…。



“…海翔。”


やっぱり


やっぱり 行かないでって…



言えたら



どれだけ 楽だろう…



“またね。”



さようならは 言わない


“おぅ。またな。”


海翔も ありったけの笑顔で言う



“猿。今度はちゃんと家族大事にしろよ”


“オタクも泣くばっかりすんなよ”


お互いが さようならとは言わなかった






プシュ




ドアが閉まる





ああ。涙がこぼれちゃいそう。


泣かないって決めたのに…



もうダメだ。アタシ


ピー



車掌さんの笛の合図



電車がゆっくりと動き出す




アタシはただ 走り方さえ忘れて

呆然と立ち尽くすだけ




“海翔!アタシ…アタシ!愛してる。”



徐々に動き出す海翔に 今まで出した事のないぐらい大きな声



ア・イ・シ・テ・ル


動き出す海翔の口からは 確かにその言葉

聞こえないけど


確かに 《愛してる》



アタシ…


アタシ…



その言葉だけであと10年は海翔の事

忘れない自信がある
愛せる自信がある






小さくなっていく電車



もう… 泣いてもいいよね





小さく小さくなっていく電車をどこまでも見送りながら、アタシは身体の水分が全部無くなっちゃうんじゃないかと 思うぐらい泣いた




アタシ…白雪姫なんかにならなくてイイから…




海翔をアタシにください




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