―偽愛―



“広海~。森田さんのお部屋に、これ持って行って来て~。”



相変わらずのオカン


だけど 髪に白髪が混じり 少し年を取った


アタシは あれから、ずっとオカンのそばに居る


会社はもちろん 住んでたアパートも解約して


こっちで バイトを見つけて始めた


今の季節は オカンの手伝い



“ほ~い。森田さんね…”


お盆に並べられた コップとビールを両手で持ち ギシギシと軋む階段を上る


“お待たせしました”


かつて 海翔の使っていた部屋のドアをガラガラと開ける


“そこ。置いといて…”


窓に肘を立てて 上半身裸の若い男の人が 振り返る







…海翔。







…一瞬 海翔に見えたけど…


違う人…





アタシ…ダメだな。


ビールの乗ったお盆を 畳の上に置く



♪♪♪♪~



その部屋にあったラジオから 曲が流れる


♪♪♪♪♪~

あなたが 幸せであるなら

私は それだけで幸せ

♪♪♪♪♪~




あの時 アタシが歌った唄


涙が溢れる



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