―偽愛―
アタシは 窓枠から足をブラブラ出して
煙草に火を点けた
メンソールの煙を肺まで 吸い込んで
一気に吐き出す
“オタク 煙草吸うんだ”
“まぁね 彼氏の前じゃ吸わないけど… アンタは吸わないの?”
“今は止めてるけど…”
“そっか…”
“…一本ちょうだい…”
“はい”
海翔は アタシの手から煙草を取り、口にくわえる
アタシはライターを海翔の煙草の前に持っていく
ライターの火で 海翔の顔が灯される
優人以外の男の顔を こんなに近くで見るのは 久し振りだ
アタシは 窓枠に腰かけて
海翔は窓枠に肘を立てて
2人並んで 何も話さず
海の波の音と
風鈴の音色と
どこかで鳴く 虫の声を聞きながら
ただ 煙草を吸う
2人が吐き出す煙が
優しく 風になびく