―偽愛―






みんなが 2階に上りオカンが部屋に帰って来た


部屋に入るなり
“なんで優人クンと、別れたん?”と、おばちゃん根性丸出しで 聞いてきた


“優人…好きな女がいるんだって…”


“そうか…”

先ほどのおばちゃん根性は一気に消え失せ しんみりした感じになっていた


“アンタ…辛くないんか?”


“…うん。まぁね。最初は辛かったけど、今はフッ切れてるよ…”


“…そうか…ならエエわ…”


“なぁ…オカン?”

“ん?”


“幸せってなんじゃろうな…?オカンは父ちゃんと知り合って、幸せじゃった?”


“…父ちゃん。早う死んでしもうたけどな…オカンは今でも父ちゃんの事 愛しとるし、幸せじゃ。父ちゃんに会えた事も父ちゃんと結婚して、アンタが出来た事も 全部幸せじゃ。”


“……。”


“幸せってな…待っとっても来んで。自分で掴まんとな。じゃけど、人を不幸にして掴んだ幸せは 決して幸せには、なれん。その時は幸せでも、いつか必ず自分に返ってくるで…”


“…そう…”


オカンは 髪を捲りあげて 顔にクレンジングオイルを丁寧に塗りながら 鏡越しにアタシに話した



“…アンタには言うてなかったけどな…オカン…略奪愛なんよ…”


“…はぁ?”


何の事か 分からなかった


オカンの口から 『略奪愛』って言葉が出てきた事に シックリとこなかった



“父ちゃんなぁ…オカンと知り合うた時、結婚してたんよ…”


“はぁ…”


未だ ピンとこないアタシ


“オカンなぁ…父ちゃんに惚れて惚れて、奥さんから取ってしもうたんじゃ…。じゃからかな…父ちゃんが早う死んでしもうたのは…”


オカンは 顔をマッサージしながら どこか遠くを見ながら 少し寂しげに話した


そのオカンの寂しげな顔を見て ようやくオカンの言いたい事が分かった



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