(短編)高校野球、マウンドの上の君。
来た!!
ちょっと緊張した顔で出て来たアイツは
さっきまで投げていた先輩に何か耳打ちされていた。
アイツは静かに頷いた。
そして、マウンドに立った。
バッターを見ている表情は、
夜の学校で見た時と同じだった。
「頑張れー!」
応援の人達が皆口々に叫ぶ。
私も言いたい…
こんな大勢が叫んでるなら、バレないよね。
「頑張って!!」
どさくさに紛れて全力で叫ぶ。
…ん?
アイツがこっちをチラッと見た…
気のせいだよね。
そんな事を考えている間に投げる用意ができたらしい。
アイツがボールを投げようと腕を軽く空に掲げる。
すると、観客席は静まり、息をのむ。
耳に入るのはすこし遠くから聞こえる吹奏楽部の奏でるメロディーと
応援団の声援だけ。
スローモーションを見ているように
ボールが手から離れ
アイツとバッターとの間にゆっくりと一本の白い線を描いていく。
ボールがキャッチャーのグローブに入る直前に、
バッターがバットを振る。
だけど、ボールは当たらない。
グローブにボールが納まった音を聞いて
我に帰る。