未完成コンプレックス
小学2年生の夏休みのある日。僕は冷房の効いたリビングルームで宿題の工作に取り組んでいた。
部屋には掃除をするお手伝いさんの鼻唄が微かに響き、隣では母が穏やかな笑みを浮かべて僕の様子を見守っていた。
「潤ちゃん、上手ねー」
母に褒められたのが嬉しくて、紙粘土のティラノサウルスの尻尾はどんどん伸びていった。
その時僕が感じていた空気は、母の笑みと同じようにとても穏やかなもの。それが突然ピンと張り詰めたのは、来客のチャイムが家に鳴り響いたときだった。
「帰ってらっしゃったわ」
母の言葉に、思わず手に力がこもる。ティラノの首がもげて、テーブルの上にボトリと落ちた。
「ほら、潤ちゃん。早く、早く」
嬉々とした声をあげる母に手を取られ、僕はのろのろとソファーから降りる。
母に導かれるままリビングを出ると、生暖かい空気が僕を包んだ。
そして、視界に遠く映る玄関口には、数週間ぶりに見る父の姿。