mixed Emotion
首元には赤い傷がいくつかあって

痛々しかった。


「そんなこともないよ」

思わず見栄を張って嘘をついた。

今日が初めてなんて、

垢抜けた彼には、
恥ずかしくって言えない気がしたから。


切れ長の目に長い睫毛。
白い肌にはにきびひとつなくて、

間近で見ると、女の私でも嫉妬してしまいそうなきれいな顔立ちをしていた。


お姉さんとかいたら美人だろうな・・・。



「そっか、ゆりは彼氏いないの?」


ぼ〜っと彼の容姿を眺めていた私は

いきなり名前を呼び捨てにされたので、

胸がドキリとした。


いないよ、そう言おうとした時に、


「あっそのシールgwenのアルバムについてたやつじゃない?好きなの?」

彼と反対側に置いていた、
私の鞄に貼り付けてあるシールを指差した。


私は緊張感を隠しつつ


「そうだよ」とだけ言った。


「俺も好き」



無表情だった彼が笑った。


大人びた顔立ちだが、

まだ少しあどけなさも残っている。


その後しばらくしてスピッツが、


からになった私のグラスを見て、


「ゆり、何か飲む?」と聞いてきたけど


私はさっきとは違い


馴れ馴れしいやつめ、


と警戒した。
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