15の夜はティラミス・ガールズと共に
 ある小学校の裏門だった。

 昼間でも9割は影になる立地で、無機的なブロック塀が50メートルは続いていた。
 確かに落書きにはもってこいである。

 
 「…なるほど。これは酷い」
 落書きはスプレーを垂れ流した粗雑なもので、落書きといっても絵は僅かで、ほとんどは文字だった。
 そこには何の芸術性も無かった。 


 「でしょう?」


 「まったくです。特に文字というのは好かない」
 
 田岡の言葉には深い含みがあった。
 若者こそは、殊に世界に反発する若者こそは、文字の力など疑って然りではないのか。

 大学抗争の時代を経験した田岡からすれば、これらの落書きは、自分達の無力と世界への服従を、自ら高らかに宣言しているものに思えた。
 
 
 今の人間は何にも“なれない”のだ。
 不良にすら“なれない”のだ。

 
 そう結論付けた田岡は、皆が自分に似ているという不幸に、少し安堵した。
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