15の夜はティラミス・ガールズと共に
 「丈はどうかな?」
 リーダー格の老人が言う。

 「ええ。大丈夫」
 田岡はその女性に感謝の一瞥をし、彼の頓馬ぶりを囲むボランティアの人々には「ピッタリです」と笑顔を作った。

 
 「では、早速始めよう!」
 老人は手を叩いた。「春子さん、田岡さんに教えてやってください」


 誰が指示するわけでもなく、ボランティアの人々は等間隔に分散して、長いコンクリート壁一面に広がる落書きと対峙していった。

 皆、手際が良い。

 
 「…僕は何をすれば?」

 田岡はともかく手近にあった溶剤の一斗缶に手を伸ばした。

 「あ、ダメダメ!」
 春子と呼ばれた七十ほどの女性は、驚くほど機敏に田岡の所作に反応した。
 「マスクしないとダメよ。中毒で死ぬわよ」


 「はぁ…」

 
 「そんな事もしらないの?」
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