15の夜はティラミス・ガールズと共に
 綾はベッドに座りなおし、床に崩れる寿を見下ろしていた。
 
 言葉は出なかった。

 本当に大切なとき、人は言葉を発しない。

 それはその人がその人の人生の主人公である証拠なのだ。たしかに、人はおうおにしてロマンチックの奴隷になる。しかしそれは“ポーズ”に過ぎない。
 
 例えば、そう、別れ話のときに気の利いた台詞を吐く男などはその例だ。彼は偶像の主人公にのみ捕らわれ、永遠に『自分の人生』の主人公になれないのだ。きっとそんな男は自らが絶命するときに初めて、自分の人生がフィクションの真似だった事を、わざとらしく泣き崩れる特に親しくもなかった親類の涙で気付くのだろう。

 長くなったが、ともかく綾は、この大切なこの瞬間に、『自分の人生』を辿るように沈黙していた。

 『私達の人生』は、相手の台詞に対して直ぐに感情を口にしなくてはならないドラマなどではないのだから…。

 「………」
綾は沈黙のまま、寿の頭の旋風あたりをぼんやり見つめていた。

 
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