15の夜はティラミス・ガールズと共に
 田岡は、また暫く瞑想すると、おもむろに健康診断書を手に取った。

 「彼(息子の事だ)に言いくるめられるとは…。兄貴ももう長くはないようだね」田岡は独り言を言った。健在だった頃の兄なら、守銭奴の如き甥(つまり田岡の息子)を一喝するだろうに、不幸ながら彼は病の床に伏していた。
 「やれやれ……。癌疾患の家系か…」
 田岡の父も癌で死に、兄も今、殺されようとしている。
 多分、田岡の別れた奥さんが健康診断の用紙を同封して送ってきたのは、彼女なりの思いやりではあるのだろう。

 田岡は無言で健康診断の用紙を見つめていた。

 テレビはまだ、田岡の出演する『刑事ヒーローズ』の話題をしゃべっていた。こういうとき、テレビは本当に無思慮で無能に思える。
 
 「…そして主人公の光さんの名演技を影で支えるのは、数々の名作に出演した大ベテランの田岡寿男さんで……」と、局アナウンサーは笑顔で話し続ける。
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