15の夜はティラミス・ガールズと共に
 ………
 
 刷毛の手を止めて智美が言った。
 
 「ねぇ、ちょっと! 寿くん」
 三方をコンクリートに囲まれた陸橋の下は、エコーの効果絶大だった。それはまるでカンダダが手にした蜘蛛糸のように、彼を現実へと引き上げようとする声の錨にも思えた。

 彼だってその声は聞えていただろう。

 しかし彼は、まるで自分の名をした誰かが呼ばれているように、我関せずといた風に作業を続けていた。

 
 「寿!?」
 今度は双子のもう一人、美幸が強く呼んだ。


 彼はハッと気がついく。
 「………はッ うっ、うぁ、ヤベッ!!」 危うく脚立から落ちそうになった。「な、なんだ?」


 「ちょっと、ここなんだけど…」
 智美は彼の下書きのキャンパスの一部を指さした。


 
 

 
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