15の夜はティラミス・ガールズと共に
 ………

 「…残念ですが、お察しの通りなんです」
 笑いが収まると、医者は静かに言った。声のトーンを落とし過ぎる事は無く、同情を加え過ぎる事も無い、彼自身の責任ある一言だった。

 田岡はそんな自分の人生における責任のある言葉を、果たして自分が言った事があるのか、と自問した。
 答えはNOだ。どこかの脚本家がコーヒーと煙草を栄養源に寝不足と戦いながら書いた台詞を吹聴していただけだ。

 そう考えれば、この癌という告知はそれほど悲しい告知ではないように思う。

 いよいよ、自分の人生を生きよと迫ってくれる啓示なのだ。

 「…兄貴も癌で入院中なんだ」
 田岡は言った。僅かな微笑みが含まれているのは、傍目には苦笑に思えたがそうではない。


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