涙花‐tear flower‐【短編】
庭へ出ると、真っ直ぐにリンゴの木へと走る。

だが、見上げてみてもティアがいる気配はなかった。

少しホッとしたものの、まだ安心はできない。


(何処行っちゃったんだよ……っ。)


元気なときでも心配なのに、近頃のティアを思うとフィルは不安でいっぱいだった。

そんな気持ちを取り払おうと、フィルは首をブンブンと横に振る。

そして、別の場所を捜そうと元来た道へ振り返ったとき……


「!?」


フィルの目に何かが飛び込んだ。

他よりも木々が覆い茂ったその場所に、白く横たわるものが見える。

フィルは恐る恐るその何かに近付く。

段々とその白いものが足であることがわかった。

フィルはゆっくりとその先を目で追う。

その視線の先には……




「ティア……?」




そこには、力なく横たわるティアの姿。

傍らでは、柵を伝っている涙花が萎れている。

まるでティアの姿を悲しむかのように……。
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