涙花‐tear flower‐【短編】
「お庭からお屋敷まで囲ってる柵に、蔓みたいに生えてるのがあったでしょ?」

「あぁ……。」

「アレはお花咲かないの?」


ティアの問い掛けに、フィルは少し寂しげに答えた。


「あの花は咲かない……」




「……咲けないんだ。」




「咲けない……?」


ティアが首を傾げていると、フィルはある本を手に取った。

花図鑑らしいその本の、あるページを開いてティアに渡す。


「涙花(ナミダバナ)……?」

「そう。名前の通り、涙で咲く花なんだ。」

「不思議なお花……。」


涙で咲くなんて、とても不思議だ。

でも、ティアにはもっと不思議なことがあった。


「このお花、涙で咲くんだよね?」

「うん。」

「じゃあ、フィルは泣いたことがないの?」




「……そうだね。」




花が咲かない……咲けないのは、つまりそういうことだった。


「なんでフィルは泣かないの?」

「なんでだろう……よく、わからないや。」


フィルがそう答えると、ティアはうーんと考え込んだ。


「フィルは、1人で寂しいって思ったこと……ない?」

「ないなぁ。だって……」




「僕はずっと……1人だから。」
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