キミは許婚


電話を切ってから一人で散々泣いて、再度携帯の画面を見ると一時間も経っていた。



もう夕日は完全に沈み、空は紺色がかっていて、星と月がうっすらと見えている。



中庭にあるベンチに腰掛け、唇を噛み締めながら空を眺めていると涙は止まった。


思い切り泣けただけでも良かった。



「ありがとう……聖……」



あれから聖の着信はない。


話の途中で電話を切ったというのにかけ直してこないということは、気にかけられない存在になったということ。



「そろそろ戻らなきゃ……」



病室で不安気にしている母の後姿が頭に浮かんだ。
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