キミは許婚


「い……いつもの柚野さんじゃない……」



言葉にしてしまい口を押さえたが、気付いた時にはもう遅い。


日差しがいつの間にか曇り空に。



「明さまは随分うっかり屋のようですね。そこが聖はいいんでしょうね」



柚野さんの言葉には「私には理解できませんが」という言葉が省かれている気がした。


もういつもの柚野さんに早変わりだよ。



そして、父の病室まで来た柚野さんは足を止めて、あたしをまじまじと見つめてきた。



「しかしあなたが二度も聖を奮い立たせるとは……」


「二度……ですか?」


「あぁ、私も明さまのうっかりがうつってしまったようですね。それではこれで……」



クスクスと静かな笑いを残したまま一つ礼をすると帰って行った。
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