キミは許婚
運転席から降りてきたのは……
「お待たせいたしました」
細身のスーツに身を包み、礼儀正しく頭を下げた柚野さんだった。
頭を上げた柚野さんの顔に車のライトがあたり眼鏡がキラリと光った。
「ゆ……柚野さん!」
「ったく。爽、もう少し気を利かせたらどうなんだ」
恥ずかしさから、もうどうしようもないのに焦るあたしに反して、聖は眉をしかめながら小言を口にした。
「いえ、気を利かせたつもりですよ。こんな場所で歯止めが利かなくなっては困るでしょう?」
「止めてやったと言いたいのか。ハイハイ」
聖は聞き分けたような素振りを見せて、車へ乗り込んだ。