キミは許婚
「なんだ、爽に何か言われたのか?」
広い車内の中、聖と向かい合うような形でシートに腰をかけると、
聖はあたしにオレンジジュースを差し出しながら聞いてきた。
ワイングラスに注がれたジュースは車の振動ではなく、聖の手が動くことで揺れていた。
それくらい柚野さんの運転は静かで、安定している。
「……別に、何も」
聖に、不安に思っていたことなんて言えるはずがない。
不満の残る気持ちを抑えながらオレンジジュースを受け取ると、
聖が一つボタンを押して、運転席と後部座席を遮っていた仕切を下げた。
機械音がして運転している柚野さんが現れる。