―ユージェニクス―
スラム、野外の一角…
「チッこいつ声すら上げねーでやんの!気味悪ィ」
面白くなさそうに男は舌打ちし、地べたにうずくまる子供を更に蹴り上げた。
子供は既に体中傷だらけで、雪の様に白いはずの髪も今はコンクリートの欠片で汚れている。
子供を囲む四人の男達は蔑むべき物を見る様な目付きで子供を見下ろしていたが、それでもその子供…シティリアートは助けを請おうとはしなかった。
「……」
シティリアートは知っている。
何も言わず、何も求めず、何も考えない事が、一番安全なのだという事を。
「ォラ!!なんとか言えよシティリアート!!」
「……」
シティリアートは“なんとか”、とでも言ってやろうかと思ったが、蹴られる数が余分に増えるだけだろうと察して口を開くのを止めた。
「…コケにしやがって!!殺ってやろうか!ァア?!今なら白の怪物のせいに出来るしよォ!!」
その罵声にシティリアートの白い眉が少し動く。
「…白の怪物は人殺しなんかしない」
「ぁ?!何か言ったかァ?」
「なぁ白の怪物って捕まったんじゃなかったっけ」
「げっまじ?」
「え?白の怪物ってあの子の事?」
男達の会話の中にまだ野太くない少年の声色が自然と混じった。
「は?誰か今変な事言わなかったか?」
「俺なんも言ってねーし……って……」
「こ、こいつは?!」
振り向いた先にはシティリアートを囲んでいた男達を気持ち見下ろすかの様に、拜早が面白くない顔をして立っている。
「ほらほら本物の白の怪物だよ?オニィサン達やばくなーい?」
男達が聞き覚えのない少年の声のする方へ顔を向けると、自分達の真横に金メッシュを髪に入れた少年が存在していた。
咲眞は相変わらず棒読みだ。
「ぅおっテメいつの間に!!」
「し、白の怪物は捕まったって…」
「でもあの白髪…アレがそうならやばくね?とりあえず逃げようぜ!!」
男達はそれぞれこの場を離れる事を促しながら、拜早を遠巻きにジリジリと避けて勢いよく逃走していった。