―ユージェニクス―
「…俺超不本意なんだけど」

拜早が不機嫌そうに呟く。

「あぁいう人達にはあれが今一番効く脅しなの。人助けなんだから文句言わない」

拜早をダシに余裕で輩を退散させた咲眞は、うずくまったままの子供の横にしゃがみ込んだ。

「大丈夫?…あぁ、やっぱりシアだ」

シティリアートが顔を上げると柔らかな笑みの少年と目が合う。

色素の薄い瞳に少し驚きを点した。


「邦浦咲眞(くにうらさくま)…?ボクの事知ってるの?」
「え?」

シティリアートの問いに、咲眞はきょとんとする。

「なんだ咲眞、シティリアート知ってるのかよ」

言いながら拜早も二人に歩み寄った。

拜早は白の怪物時、また元に戻ってからもつい最近シティリアートに会っている。

咲眞は…


(あ、茉梨亜だったっけ、僕…)


シティリアートに初めて出会ったのは“茉梨亜”の時だ。男達にちょっかいを出されていた時に助けてくれた…


「邦浦咲眞…ボクどこかで君と話した?」

「あー…ぅんまぁね…」

「茉梨亜を覚えてる?あれ実は僕なんだよー」なんて言いたくなかった。こんな性格だが咲眞だって一応年頃の少年だ。
女の子に成り切っていた…なんて、口が裂ける前には言うかもしれないが、今はそっとしまっておきたい。


適当にはぐらかせながらシティリアートに付いた土やらを掃ってやる。


「おぃ、怪我とか酷くねぇか?」
拜早もシティリアートを覗き込んで顔色を伺った。

「ぁ、うん…そんな切ったりとかはしてないから大丈夫。…ありがとう」

笑顔を作って見せたが、どこか弱々しい。以前堂々と咲眞を助けてくれた時とはまるで違う。

そういえばシティリアートには闇の様なものがあったなぁと咲眞は思い出していた。


「一度身体洗った方がいいよ…立てる?」

咲眞が差し延べた手をシティリアートはやんわりと断る。

「平気……」

「…家まで送ってやろうか?」

このまま別れてまた変なのに絡まれたらやばいのでは、と思い拜早はそう言ったが、シティリアートはそれをも首を振って遠慮した。


< 104 / 361 >

この作品をシェア

pagetop