―ユージェニクス―
「…報酬」

髪で隠れた顔の中、小さく呟いた美織をあずさはちらりと見やった。

しかしすぐ蓋尻に視線を戻す。


「今日はぁさっそくお仕事ですかー?」

「うーむそのつもりだったのですがねぇ…黒川様にも事情が…」
言って、蓋尻は一瞬だけ顔を酷くしかめた。

「それにしてもなかなか来られませんね、ワタシ少し確認してきますから…」
立ち上がった蓋尻を見送る様にあずさは笑顔でその場から手を振り、美織も少し蓋尻を見上げた。

扉は小さく音を立てて開閉された。


「………」

残された、二人きり。



「美織ちゃんっていうんだねぇ〜可愛いね」

躊躇なく初対面の女の子に話しかけられ、美織は思わず驚く。

「ぁ、ありがと…」

「その様子じゃぁアナタは連れてこられたんだね〜でも、服とか好きな物貰えて贅沢に暮らせるなら万々歳じゃなーい?」
あずさは目を細めて美織を覗き込む。

あずさの方こそ、とても可愛い顔だと美織は思った。

「わたし…は…報酬とか貰っても、そんなの…」

黒川邸の噂はスラムの誰でも知っているが、まさか自分が此処へ拉致されるなんて思ってもみなかった。

しかし今現実に此処に居て、このままでは黒川や知らない人までを相手に…

「美織ちゃんどぉしたの?寒いー??」


この子は、あずさはどうしてこんなにあっけらかんとしているのだろう。

平気なの?

分かってて、報酬を目的として自ら来たなら…

自分とは全然違う女の子だ…



「探検しよっかぁ美織ちゃん!」

泣きそうになった時、あずさが突然ウキウキと言った。

「…た…探検?」

ひょんな事に目を白黒させる。

「そぉ!さっきの人もここから出るなとは言わなかったし!さっ早く早くぅ〜〜〜」

無理矢理美織の手を引っ張って立ち上がらせ、あずさは勢いに任せて先程蓋尻が出ていった扉のノブに手を掛ける。

「ちょ…ちょっと…!!」

いいの?!

そう言おうとして口を開きかけたが、あずさは素早く振り向いて“静かに”のジェスチャーを不敵な笑みの前で作った。

「………?!」



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