―ユージェニクス―
「研究所からお届け物なんテ珍しいネ。何が入ってるんだロ」

峯は怪訝そうに段ボールを見下ろしているが、高城は興味津々といったところ。

段ボールには『取扱注意』の赤いシールが張ってある。


「まるで人一人入りそうな大きさよねぇ…」

峯はまじまじと箱を見つめる。

宅配業者を疑うわけではないが…
現に時々黒川邸に宅配は来るわけなのだし。

「エッボクも入れるかナ?!」

「アンタは無理。さ、人呼んでこの荷物運んで貰いましょ」

荷物から目線を離し、峯は黒川邸裏門に付いているインターホンを長い指先で鳴らした。









「な…?!」


扉を開けて、蓋尻は目を丸くする。

さっきまでこの応接室に居たはずの二人の娘が…居ない。

「蓋尻…これはどういう事だ?」

蓋尻の背後に居たのは黒川大介。

屋敷の主は黒い髪をこれでもかという程整え、少し着崩した黒い洒落着を身に纏った中年の男。
全身に多少メタボリックが伺える。

娘達が居ない事に不機嫌な顔色をあらわにした黒川は、大して大きくもない目を細め蓋尻を見やった。

「おい、どうなっている」

「はっ申し訳ございません今確認を……おい!娘らはどこへ行った!!」

蓋尻は今居る扉の上に密かに設置されていた監視カメラに怒鳴る。

『あ…お二人は探検するとか口にして部屋を出られましたが……』

蓋尻の片耳に付けられた無線インカムに、モニタリング室でカメラの映像を見ていた警備員の返答が届いた。

「た、探検だとう…?!」
蓋尻がわなわなと震える。

「何をしている蓋尻、屋敷に居るのなら探してすぐに連れて来たまえ!」

後ろからの黒川の命令に飛び上がる蓋尻。

「はっはい黒川様!到らぬ所存申し訳なく……!」
「いいから早くしろと言っている…まったく、私にもスケジュールがあるのだよ!見つけたら二階の私の洋室に来させなさい」


ズケズケとそう蓋尻に言葉を浴びせ、黒川は質素な応接室を後にした。

それを蓋尻が深々と頭を下げ見送る。


「……くそ、娘らはどこへ行った?!」

額に脂汗を掻きながら、蓋尻はもう一度監視カメラに向かって叫んだ。


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