―ユージェニクス―
その少女は白いキャミソールワンピースに何故か裸足……自分と同じくらいの年齢で、どこか冷たい表情をしていた。
(でも…暖かい…)
ふわりと包み込む様な手の平の暖かさ。
少女は美織に対し何も詮索する事なく、ある方向を指差した。
「この通路を真っ直ぐ…鉄の扉が見えるでしょ?あれがこの屋敷の裏口よ」
可愛らしい声に感情が篭っているとは思えない程淡々と、少女は美織の進む道を指し示す。
「警備員が居ると思うから、見つからない様にね」
言って、少女はふっと笑った。
(あれ…)
美織は一瞬彼女を見つめる。
笑ったはずなのにぎこちなかった少女の顔。
まるで使い方を忘れた表情筋で、頑張って笑ってみた様な。
「あ……あなたは……」
「茉梨亜、よ」
マリア……
それは聖なる名。
「ありがとう、茉梨亜」
礼を言った美織から、茉梨亜はすっと手を離す。
美織は駆け出し、小さな鉄の扉から姿を消した。
寸での差、茉梨亜の居た通路に二人組の男女が現れる。
「アっほらァやっぱり峯と居て正解ダッたでショ!」
「茉梨亜…こんな所に居たの、蓋尻が呼んでるわよ」
二人に促されるまま茉梨亜は頷き足を踏み出す。
「……」
そして最後に一度だけ、あの裏口の扉を一瞥した。
(あそこを出れば、光の中に)
けれどもう、私は向こうへ行けない。
光が怖い。
二人が…怖い。