―ユージェニクス―
「はぁッはぁ……」

鉄の裏口を抜け、うたた寝している警備員の目を擦り抜けて、美織は黒川邸を脱出した。

日の光。

太陽が西に落ちる橙色の夕空が広がっている。


「はぁ……はぁ……」

助かった 私、でも……


残った人達

あずさ あの少年 それに、

「茉梨、亜……」



自分一人で抜け出して良かったのだろうか?

あずさは自ら黒川邸に来たと言ったが、何かもっと別の目的があったのでは……


「私…」

自分も何かしてあげたい……

そう思ったが、自分に何か出来るとも思えないし、それぞれの事情も知らないのだ。


「高野美織だな?」

と、不意に声に呼ばれ、顔を上げる。

「!!」


……そこには一人の黒服が立っていた。
その後ろにも後二人……


美織は自分の顔が引き攣っていくのが分かった。


「少し尋ねたい事がある。同行願おう」

男は目を細め美織を見る。

美織にはどういう意味なのか分からなかった。

だが理解出来たのは……

(こ、この人達……)

彼らの眼光、立ち姿…

彼らは、黒川の者ではない。











……なんだこのガキは。

黒の精鋭相手にこの同等の身の熟し。

……いや

「精鋭っつっても所詮元チンピラだな、おまえ、そんな強くないだろ」

少年の鋭い言葉に黒服の男は腹を立てたが、その隙に少年の拳によって鳩尾に一発喰らわせられる。

「ぐ、ゥ……貴様、何者だ……」

「質問するのはこっち」

うずくまった男を見下ろして、キャップを被った少年は低く尋ねた。


「茉梨亜はどこだ?」



< 131 / 361 >

この作品をシェア

pagetop