―ユージェニクス―

「時間、あまり食いたくないんだけどな…」
小さく呟いた咲眞の言葉は二人に聞き取れなかった様で、怪訝そうな顔で咲眞を見下ろした。

「君達さ、こんな事やってる暇があったらこれからどうするか考えたら？」
平静を装いながら口を開いた咲眞だったが、蹴られた箇所が地味に痛い。

「五月蝿いわよ、これからはあんたに男ら任せて、わたし達は見物でもしてるわ」

床の咲眞を見下げながら女子らは笑う。

「あー僕これからやる事あるんだよね、君達みたいに遊んでる時間無くて」
目を細めてそう言うと、一人が咲眞の前に片膝をついてしゃがみ込んだ。
「ボク、だぁ？ふざけてんじゃねぇよ」
毒づいて彼女は咲眞の髪を上から掴む。
が、やはり咲眞は淡々と。

「女の子がそんな言葉遣いするのどうかと思うよ。あとさぁ…裸でいられるとこっちも色々困るんだよね」
こんな彼女らにわざわざ“あずさ”として接する気は更々ない。
髪を掴まれてもマイペースな態度を見せられ、女子達は一瞬唖然とした。

「てめぇ…今の状況分かってんの？」
しかし女子は薄ら笑いを浮かべ、掴んでいた咲眞の髪を無理矢理横へ引っ張り払う。
黄土色の髪が乱れた。


「…何？その目！」

咲眞の目付きが気に入らなかったのか、女子は不機嫌さをあらわにした。

今までやって来た新人はまさに震えながら止めてと懇願する者ばかりだったのに。
まぁそれでも止めなかったが。
殴って蹴って服を破き部屋に吊るし、精鋭が来るのを伺ったりしたものだ。


「……」
咲眞はこれ以上床に寝転んでいても意味はないと思い、乱れた髪を撫でながら起き上がろうとする。が、目の前の女子に素早く両肩を掴まれ床へ俯せに押し戻された。

「ッ…何するの」
二人はニヤリと笑みを浮かべる。
…まだ１７、８ぐらいの歳だろう、顔に幼さが残る。幼さと言えば１５の咲眞も負けてはいないが。

「あんたのその無駄な余裕のカオがムカつく」
「ちょっと大人しくしてなよ、面白い事してやるから」