―ユージェニクス―
『私は黒川が嫌い。でも峯は黒川が好き。黒川さえ峯を好きになってくれたら、丸く治まるんだもの』
『………』
『ほら、別に優しくないでしょう?…あたし』
『……アンタ』
「勝手だな……」
何故か笑みが零れた。
彼女も自分で言ってる事が笑えたみたいに、小さく微笑んだ。
――変な子。
笑えないくらい、病んでる筈なのに。
何がアンタを喋らせてるの?
――性格ってヤツかしら。
ふふ、アタシは黒川様のおかげで、存在を見出だした筈だったけど……
「峯……」
声。
よく知った、変な男の声。
「高城……」
巨漢が、とても寂しそうな顔をして自分を見下ろしていた。
頭を上げようとした峯だったが、少しでも首を動かせば痛みと吐き気が襲う。
「……立てないわ……アタシとした事が、情けないわねぇ」
「峯、ごめン……あいつらニ逃げらレちゃっタ」
「…そ」
以前、あの子達を逃げられまいと捕まえた時と、何が違ったのかしら。
武器を持っていた事?
アタシ達が油断した事とか?
…それもあったかもしれない。
でも
「弱いわねぇ、アタシ」
憧れでもあったのだろうか。
友達や信念……そんな、奇妙なものに。
「峯、だいジョーぶ?」
心配そうに覗き込む高城に見上げていて、無性に笑えてきた。
「らしくないわよ高城!…アタシは大丈夫だから」
……らしくないのは自分の方?
「ねぇ高城」
「ン?」
「……スラムに戻ろっか」
「!」
きっと戻っても、アタシは黒川様が好きだわ。
これは変わらない。
けど……
「ふふ…飽きちゃった、此処」