―ユージェニクス―
―10―
――拜早達が黒川邸に侵入する数時間前。
時刻は午前。
外界某所。
電話のベルが鳴り響く。
数回鳴った後、部屋の奥から手帳を持った、品の良い女性が現れた。
受話器を取る。
「お電話承り致します、内閣府特命担当大臣、日堀彰(にちほりあきら)事務所でございます」
『あーちょっと話したい事があるんだが』
女性…日堀の秘書は電話の向こうの声に顔をしかめた。
「失礼ですが、お名前を頂けますか?」
丁寧にそう返す。
聞いた事のない男性の声。それに多少言い回しが粗雑だ。
『あんたで構わない、日堀さんに伝えてくれ』
「あの、」
男はこちらの対応を無視し、一方的に話を進めた。
『保護地区に対しての扱い、民事法が改正されたよな』
「……それが何か?」
秘書は相手に合わせる事にする。
こちらも暇ではない。下らない用件なら即刻切るつもりでいた。
が、
『保護地区内部粛正の総指揮は日堀さんにあると聞いた』
「そうですね」
『あの新法案を掲げるなら、先に保護地区内の悪党を制圧すべきだと、俺は思うんだが』
「……」
・
・
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――正午過ぎ。
「戻ったよ」
「お帰りなさいませ先生、実は午前中に妙な電話が…」
「妙な電話?」
部屋に現れた細面に眼鏡を掛けた男が顔をしかめる。
「はい、保護地区に関する新法案の事で……」
秘書がそう言い内容をメモした手帳を開きかけたところで、
「!」
再び電話のベル。
「取ろう」
日堀が受話器を取った。
「…内閣府特命担当の日堀です」
『あ、日堀大臣ですね?お忙しいところを失礼致します。わたくし大日テレビのtodayニュース24という番組を担当しております、荻野と申します』
「?……マスメディアさんが電話で何用です?」
日堀は細い眉を少し上げた。
『えぇ、実は先程、トウキョー保護地区の中の……黒川大介邸内の情報を手に入れまして』
「黒川…?」
「!」
日堀は話の筋が分からないという顔をしたが、秘書が黒川という名に反応する。