―ユージェニクス―

「おまえは…!!」

一人驚愕した黒川の前へ咲眞はつかつかと歩いて行く。

黒川の目の前。

そう背の高くない黒川の肩。

触れる。

そして、耳元へ。


「……あずさだよぉ?黒川さま☆」




「……!!!??」

黒川は悪寒でも走ったかの様に咲眞からのけ反った。


「まだ夜じゃないけど来ちゃったー」

今度は棒読み。
一気に壁際まで離れた黒川を楽しそうに見やる。

「そ…その喋り方先程の……じゃあおまえが!?」
明らかに黒川は動揺した。

「そう。もう一人の子は裏口から逃がしたよ…」


黒川の御蔭で変わった事は多い。
変わらなくて良かった事。

「あのさ、黒川さん」

思い出したくもない出来事。


こうして……

「こうしてあんたと向き合ってるだけで、死にたくなるんだ」

最後は使い物にならなくなり、売られた。

「こうやって普通にしてる僕を褒めて欲しいくらい」

現実から目を逸らして、拜早とも面倒な事になった。

元凶の黒川を見ていると、こんな奴に弄ばれた自分を消してしまいたくなる。

反して、黒川も消してやりたいという気持ちだってある。



「……何なんだ?」
少年は、黒川と現れた少年のやり取りの間に少女に服を着せ、覚束なく自分も衣服を纏ったが……
しかし現れた少年が気になる。
黒川の屋敷に踏み込んで来れるとは、一体何者なのか。



黒川は信じられないという顔をしながら。
「…確かに売ったのに…」

「あれからも色々大変だったんだよ?」

だが咲眞は冷静だった。
笑顔を貼付けている。
そんな少年と向かい合い、黒川も多少落ち着きを取り戻した。


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