―ユージェニクス―
「…茉梨亜を連れ戻しに来たのか」
「分かってるじゃない」
そう、今の目的はそれ一つ。
黒川を粛正に来たわけではない。
「ククク……」
喉で笑った黒川へ怪訝な目を向ける。
「何か可笑しい?」
「君達がここに居た時の事を思い出したのだよ。いや、つい最近の事なのに酷く昔の様だ……」
黒川は壁に沿いながらゆっくりと歩く。
「なかなか楽しめたよ。なぁ?私はあれが一番好みだった。茉梨亜も私を思う存分求めてくれた……」
「……」
咲眞は黒川邸での事を回想してから、疑問に思っている事がある。
あの様な醜態に晒されたのなら尚更、自分達がこの屋敷から逃げ様としないなど…有り得ない。
少なくとも自分は、死に物狂いで二人を連れ脱出しようとするはずだ。
それが出来なかった。気力を奪われていたのは…
自分らしくもなく本当に身も心も黒川の手に落ちていたから?
それとも……
黒川は壁際に置かれたインテリアの机に辿り着いていた。
「残念だよ」
「!」
黒川は机の引き出しを素早く開く。
「私は君達を気に入っていたのに」
中には黒い拳銃。
瞬間自分へ向けられる銃口に反応し、咲眞も懐から銀の銃を引き抜く。
が、
『パシュンッ』
黒川が先手、打たれた。
肩。
衣服の欠片と赤い粒が小さく舞う。
「……!!」
肩に温かさを感じる。
手で触れると傷口から溢れるもの。
「次はないぞ?」
この肩は……白の怪物に刺された所と同じ。
「は……」
痛い。
掠っただけではあるが、多少はえぐれている気がする。
しかし……咲眞はまだ手に持つ銃を離していない。
痛みに耐えながらも銀のそれを固く握った。
「茉梨亜を連れ戻したいらしいが……」
ふと黒川は口を衝く。
「無駄だよ」
「…」
眉を顰めた咲眞に、黒川は毅然と言い放った。
「茉梨亜は君達の所には絶対帰らない」
高揚とした黒川の顔。
なんだ、こいつは。
「無駄じゃない……連れ戻す!」
「彼女は二度と君達には着いて行かないだろう。私と茉梨亜は……」