―ユージェニクス―
「ま…待ってくれっ」

冷酷な瞳と額の銃口の冷たさ……流石に身の危険を感じたのか、黒川の口元は震え出す。

「わ、分かった!よし、そこまで言うなら君と茉梨亜を会わせよう!だからそれを……」

見当違いな事を言われた。
そんな無駄な配慮がなくとも茉梨亜とは勝手に会うつもりだ。

「五月蝿いよ、死にたい?」
「やっやめ!」

トリガーに掛かる指に力が入る。

こうなると黒川の取り乱し様は尋常じゃない。
ここへ来て己の状況を把握したのか、銀の銃と咲眞を交互に見る目は素早かった。
「たっ頼むそれだけは…!!!」

「……」



――実際、もともと引き金を引く気はなかった。

少年達を黒川から解放出来れば、この部屋に留まる意味もない。


「黙って後ろを向いて」
「ぅう……」

この男へ罵声を吐き出す事も咎める事もいくらだって出来る。

けれど黒川なんかより今は、
茉梨亜を。

黒川に時間を割く価値などない。


「両手上げて。窓まで進んで」

ガクガクと指示通り動く屋敷の主。

咲眞は奪った黒い銃は捨て、ポケットからスタンガンを取り出し…顔をしかめる。

「……なんかむしゃくしゃするなぁ」



覚束ない足取りで黒川は金縁枠の窓まで辿り着いた。
と、

「…?」

そこで気付く。
窓の外。


「な、何だ?あれは」


この発言が理解出来なかった咲眞は、黒川の背後から訊ねる。

「何だって?」

「何故だ…あれは……!!」

異様に有り得ないと言う声色で、黒川は窓の外を凝視し…

『スパパーン!!』


途端、黒川の後頭部に異様な衝撃。

「!??」
驚いて振り向くと自分がスリッパでぶっ叩かれた事が分かる。

「なっ何をする!!!」
「や、ちょっと気が納まらなくて…」
適当な物で憂さを晴らそうかと…
と答えながらメタボリックな脇腹にスタンガンを突き付けられたので、後半の言い分は彼には聞こえなかっただろう。

「あー少しすっきり。ん?」

電流により足元から崩れ落ちた黒川を尻目、窓から咲眞が見たものは……


「あれって……け、警察? なんでこんな所に…」








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