―ユージェニクス―
今の茉梨亜に対して…気が引けているわけではない。

とは……否定出来ない。
なんせ茉梨亜を殺そうとしたくらいだ。

消したかった。


「俺は咲眞にはなれねぇな……」

扉の前で呟く。

咲眞は茉梨亜を受け入れているし、割り切っている。

自分は……


だって、仕方ない。
茉梨亜が誰かのものになったなんて、自分は受け入れたくない。

自分だけそんな風に思うのは身勝手だろうか。


研究所に加担していた自分も、同じくらい“誰かのもの”になっていたのではないか。

「……」

頭の中が混沌としていた。


気が引けているのは……

恐らく罪悪感から。

茉梨亜の存在を否定し、すぐに此処へ来られなかった。
弱くて、自分すら保てていなかったのに……


――そんなの後で悩みなよ。


「………」

まだ追い付いてもいない咲眞の声が聞こえた気がした。


――僕もその気持ちがあるから。


「茉梨亜と、咲眞と……また」

三人で笑えたら。



……もう無理かも。

「…いや」


いいか、後の事は。


ああ、咲眞に感化されてる。



――ドアを、開けた。












黒川と似た豪華な部屋。

違うのはソファーに一人、黄土色の髪をした少女が座っている事。

腰まで伸びた明るい髪。
白いワンピースに華奢な身体。

聖なる名を持つ少女。


「……茉梨亜」



「……!」

少女は目にした少年の色合いが、自分の知るそれではない事に息を飲んだ。

その横。
まるで聖女を護る騎士の様にそれは立つ。

黒服よりも着こなされたダークスーツ、綺麗な顔立ちの中に黒川の面影を残し、親譲りの黒髪と瞳…

「ようこそ…少年」

端正な声色を紡ぎながら、黒川紀一が笑みを浮かべた。

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