―ユージェニクス―
白髪の少年が現れた扉。
円形の装飾テーブルを挟んで立つ黒服の青年。
その横、ソファーに座り込む酷く怯えた黄土色髪の少女。
再会は妙に無機質で
ただ黒い青年のみが愉しく生きている様な…そんな、部屋の空気。
少女の顔色は危機迫る蒼白、まるで殺人鬼に追い詰められた様に奥歯をカチカチと鳴らしている。
震える唇から小さく何か発している様だが、拜早には聞き取れない。
これが茉梨亜。
あの明るく活発で、気さくで少しわがままで、それでも皆に優しかった……友達。
しかし今拜早の目にそんな少女は写っていない。
姿もあの頃と違う。
もう体だって違う。
「……っ」
実際今、ここで、目の前にして思い知らされた。
ソファーの上で腰が砕けているこの少女は、あの茉梨亜ではない。
ここでの茉梨亜を認めたくなかったから、自分は茉梨亜を殺そうとした。
こんな茉梨亜じゃない茉梨亜を、認めるわけにはいかなかった。
――でも。
茉梨亜を消そうとした事。
これは洗脳されていたとはいえ、自分の意思が含まれている。
だからあの時の行動は本心だ。
それでも……今は違う。
認めたくないとか、関係ない。
この質問は意味の無い問い。
ただ茉梨亜の思いを聞きたかった。
「茉梨亜」
びくり と茉梨亜は小さく反応する。
「…殺して欲しいか?」
少女は化け物を見る様に怯え、しかし拜早の色素の薄い眼を凝視して口を開いた。
「や……」
また涙が流れる。
自分勝手な事を言っているのは分かっていた。
それでも。
「死にたくない……ごめんね、ごめん……殺されたくないよ……!!」
茉梨亜は懇願しなかった。
ただ鳴咽を含みながらもそう答えた。
茉梨亜の意思。
「ごめんなさい、ごめん……」
小さくぶつぶつと漏らす茉梨亜は、滑稽だったかもしれない。
けれどやはりこの少女は“茉梨亜”以外の何者でもなく。
そして茉梨亜の答えに安堵する自分がいた。
形はどうあれ、彼女が生きていたいと思ってくれている……という事が嬉しかった。
もう茉梨亜を消すという選択肢はないのだから。