―ユージェニクス―

「…意外だな」

不意に紀一が口を開く。

「その問いにどういう意図があるのかな、過去の少年」

くつくつとした笑みを投げられ、拜早は眉間を顰めた。

「過去の少年…?」

「君は前此処に居ただろう?蓋尻が茉梨亜と共に連れて来た……その白髪は研究所の賜物かな」

「(こいつ…)」

下手に動けない、そう感じた。
紀一には隙が無い。

「俺の問いは答えてくれないのか?」

穏やかに、しかし鋭く。


「……茉梨亜がどう思ってるかを聞きたかっただけだ。…でも答えが何でも、俺達がする事は決まってる」

「そうか、やはりね」

「(…?)」

紀一の妙に確信している一言が気になった。


「けれど少年、茉梨亜は君達を恐れている。昔と違う自分を始末しに来たと思っているんだ」

「は…っ?」

「茉梨亜は繊細だ。出来れば穏便に、今直ぐにでも身を引いて貰いたい」

「…断る。ともかく、茉梨亜が今どうであれ、これはあいつと決めた事だ」

咲眞と二人で決めた事。
変える気はないし、気圧される気もない。
必ず――


「ふん……こんなに青い顔をした茉梨亜を見るのは忍びないと思わないのか?君達の名前を出した途端この様子だよ…」

ふいに紀一から笑みが消えた。
茉梨亜に寄り添い、愛おしそうに髪を撫でる。

と、

――シュ


紀一の顔の横、空気が切られた。

「……」

「触るな」

投げられたナイフは威嚇。
だがその気になれば顔へも刺せる。

「……恐ろしい子供だ。誰に習ったのか…」

紀一はゆらりと拜早を見据えた。

「茉梨亜は俺にとってとても大切な人でね。おいそれと殺されるわけにはいかない」

「勝手に誘拐しておいてよく言う…」

こちらこそおいそれと引き下がるわけにはいかない。
しかし次の紀一の言葉で口を接ぐんだ。

「ほう、では君達は研究所へ行った後、何故直ぐにでも此処へ来なかった?」

「……、色々あったんだよ」


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