―ユージェニクス―
黒川の手に落ちた事を認めたくないくらい茉梨亜は大切で、茉梨亜はそれ程の人格だった。


「遅くなって悪かったと思う…なんですぐ気付かなかったんだって」

…茉梨亜は今までだけじゃない。今の茉梨亜も引っくるめないと友達だなんてきっと言えない。

「今がどうとか黒川に何をされたとか重要じゃない、ただ俺は、俺達は茉梨亜に傍に居て欲しいんだ」

「――」
瞳孔が開いていた茉梨亜の震えが止まった。

「遠回りしてやっとそれに気付いた。だから、茉梨亜を迎えに来た」





拜早の言葉をしばしきょとんと聞いていた紀一は、それでも口元に笑みを戻して茉梨亜へ囁く。

「…茉梨亜、駄目だよ騙されては。嘘なんだ」

「……嘘……?」

茉梨亜は赤く腫れた目で拜早を見る。


「茉梨亜……帰ろう」

拜早――
表情の起伏が薄い拜早の顔。
実際はそう。
しかし咲眞とよくちょっかいを出して怒らせていた。
楽しくて……
「わ…わ、私……」

“あたし”の好きだった人――



「拜早……やだよ……来ないで、見ないで…!!」

ズルズルとはいずりながら茉梨亜はソファーから離れ、後退りをしながら後方の巨大なベッドへ向かう。
天蓋付きのそれは上から薄いベールが張られ、茉梨亜の姿を隠した。

「茉梨亜…?」

「さて、お互い引く気はない様だし、力ずくで帰って貰おうか……」

茉梨亜を護る様に立ちはだかる紀一。
一見武器らしき物は持ってなさそうだが…


「ん、構えないのかい?なら俺から行くが」

紀一は拜早との間合いを詰めながら

「茉梨亜、彼は君を油断させて殺す気の様だよ。少し待っていてくれ、直ぐ片付ける」


「……」

茉梨亜からの返事はない。
ベールに阻まれ姿もぼんやりとしか見えない茉梨亜へ視線を投げ、拜早はギリ と歯を食いしばる。

「(茉梨亜が変に誤解してるのは間違いない…こいつさえ居なければ話合えるのに……)」

しかし状況に文句を言っても仕方がない。

そうこうしているうちに紀一は目の前。


「……御手並み拝見といこうか」


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