―ユージェニクス―
下顎が言う事を聞かない。

分かっている。
友達を裏切ったくせに死にたくないなど身勝手過ぎる事を。
恨まれて殺されるのは当然。
あんなに信頼して仲が良かったのだから、反動があって当然だと理解している。

それでも生きていたい。

死ぬのは怖い。

拜早のナイフで裂かれるのはきっと痛い。

ただ怖いのが嫌なだけ。

なんて臆病…………




でも。

拜早が茉梨亜を殺すのを諦めなければ

それを阻止する為に

「紀一が……」

拜早を殺してしまうかもしれない。

  『茉梨亜を迎えに来た』


「ほ…ほんとだったらいいのに……」
泣きながら呟いた。

「ほんとだったら紀一もきっと殺さないよ…」

震える両手を握りしめて。

「でも、でもほんとでも……私は……」






ガシャンという破壊音。

円卓に蹴り飛ばされた拜早は身体の痛みを咳き込む事で訴える。

「ぐ…くそ…ッ」

何故こんなに痛むのか。

(…峯との時に、傷でも出来たか…?)

だとしたら打ち身だろう。
背中に内出血でもあるのか。

「…クッ!」
覗き込んで来た紀一に手刀。しかし避けられる。


「……ふむ、疲れさせていると言った意味では、精鋭や峯達は無駄じゃなかったな。君は俊敏そうだし…万全なら俺は負けていた気がする」

淡々と口調は言っているのに、その顔は酷く歪んだ笑みを浮かべている。

「―ッ!」


掴まれる白髪の頭。
無理矢理頭を上げさせられ、問われた。

「さぁ最後だ少年。大人しく帰ってくれるか?俺はまだ茉梨亜と話し足りなくてな……」

黒い瞳でまるで嬲るかの様に見られる。

酷く、嫌な感じだ。


「……冗談」

それでも、負けるわけにはいかない、この男に。

「っ!!!」

容赦なく横顔を叩かれた。
「…ぅ」

痺れる。
軽く目が回る。

「しつこいな…」
「……」

茉梨亜は手を伸ばせば届く場所にいる。

こんな恰好で心底情けないが……
それでも決意は曲げられない。


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