―ユージェニクス―

紀一の手が不自然に動いたのを見、同時に拜早も飛び出す。

「!!」

正面には突っ込まず、進行方向のまま横並びへ。
「!?」
「…っ」
閃光の様に振り上げる拜早の片手には折り畳みナイフ。刃は出さずそのままの状態で、紀一へ振り向こうとする遠心力を借り、それを相手の背中に突き落とした。
「ガッ!!!」

必然的に前のめりになる紀一へ拜早は自分の向きを素早く正す。
ナイフを受けた一瞬、紀一の呼吸は止まる事になったが、彼はそれを気に留めない。
不自然に動いた片手はスーツの内ポケットへ。

「――なにッ」
思わず口走ったのは拜早。

直後射撃音。

「ッ!!?」

やはり――と言えばやはりかもしれない。
しかし配慮が足りなかった。
こんな屋敷だ、誰も彼も銃を持っていたっておかしくない。
紀一が持つ拳銃は銃口から薄く煙りが伸びている。

それに気を取られた瞬間

『ガゥン!!』

再び一発。


「――っ!!!」


大丈夫だ、まだ威嚇。
だが。

「は、…つ…ぅ」

へたへたと足元から倒れる拜早。

その両足は血塗。


「気にするな、掠らせただけだ……と思ったんだが、ん……一発は当ててしまったか?」

本気で言っているのか。

確かに右足は貫かれている。
左だって掠ったなんてものじゃない、肉片がちぎられていったんじゃないのか。

(……あ)

「あぁあ……――ぁッッ!!!」


これこそ冗談だ。
激痛……穴が空くより酷い。
これではもう、立てない。

「ぎ…ぃ、」


それでも無理矢理身体を起こした。
じゃないとまた撃たれる気がして……

吹き出す液体は床を濡らす。

「あぁ……これでも諦めないのか、残念だ」


(不覚……バカか、俺)

足が酷く熱い。入れ間違えた湯にでも浸かっている様だ。

「こ、ぃつは……流石に、」
顔を歪めて吐き出す。

速さがあっての拜早の攻撃だが、足を壊されたらどうする事も出来ない。

「…くそ」

ならろくに打つ手が無くなった。


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