―ユージェニクス―
突き放されて床に倒れている咲眞。
「…拜早に手上げられるのこれで二回目だよ。あ、“茉梨亜”の時も入れたら三回…あれ、四回目?」
「だっだからわりぃって言ったろ!無事だったんだから文句言うな!」
咲眞を横から突いたのはやはり拜早で。
的が消えた紀一の銃弾は空を撃ち抜き、その一瞬、拜早が紀一の首筋に鋭く手刀を放った。
…しかし。
手刀は紀一の腕によって関止められている。
一瞬の攻防を辛うじて防いだ紀一……も、この場を唖然と感じていた。
「あの、本気でまずいんですけど、俺……」
紀一の真隣で完全に足が動かなくなった拜早。
状況に呆れる咲眞に
呆然と、目を丸くしていた茉梨亜。
「っ……もう、いい」
……最初に動いたのは茉梨亜だった。
ふらふらと、身体重く立ち上がる。
「もう嫌よ、もうやめて」
「茉梨亜…」
傍らまで来た茉梨亜へ向かい、紀一はずるりと身を起こした。
「茉梨亜、どうして?君は俺の気持ちを知っている筈だ、俺は茉梨亜が居なくちゃ駄目なんだ!その為にはこいつらが……」
「…紀一」
懇願染みた瞳の青年を哀れむ様に見下ろし、茉梨亜は首を横に振る。
「駄目なの私。やっぱり私は……死にたくないけど、消えるべきなのよ。じゃないと私は“あたし”に許されない」
そして二人をゆっくりと見た。
拜早と咲眞。
懐かしい顔、声。
来るはず無いと思っていた光。
こんな怪我を負ってまで、自分の元へ来てくれた。
「“あたし”を迎えに来てくれたのね」
微笑む事が出来た。
それはここから連れ出してくれるのでも、殺してくれるのでも……構わない。
『茉梨亜』を思って来てくれた。
「…ありがとう」
その笑顔は『茉梨亜』の笑顔。
大切な人の大切な微笑みだった。