―ユージェニクス―
「な…」

「なっ何言ってるんだ茉梨亜!」

拜早の驚愕を遮って紀一は茉梨亜を掴む。

「君は死にたくないって言ったじゃないか!それに俺の傍に居るって…!!」

茉梨亜はそれでも少し苦笑した後、とつとつと言葉を紡ぐ。


「ごめんね紀一。あたしね……やっぱりここが嫌いなの。黒川も嫌いだし、“私”も嫌い。でも抜け出せなかったのはあたしの責任。あたしが弱いから」

もう決めてしまった様に。
茉梨亜は。

願う事もなく、懺悔をする事もなく。


「救われない、あたしは。それでいいのよ。怖いけど……受け入れないとね」

「茉梨亜…嫌だよ、茉梨亜が殺されるんなら、俺が先にあいつらを殺すから!」

「それは駄目」

柔らかく。
制止をさせる。


「こんなあたし、拜早と咲眞に友達として顔合わせられないもん。あたしは汚いし…弱いし……だから」


もう一度、二人を見た。


「ね、咲眞。あたしを消しに来たのなら迷わず殺して。連れ出してくれるっていうのが本当ならとってもとっても嬉しいけど……それでも、殺して」


そっと笑う。

さよならと言う様に。



「……」


「……」


黙って聞いていた二人は紀一と違い歪めた表情は無かった。


ただ二人らしい顔付きで。
拜早は多少難しい顔をしていて、咲眞は何を思っているのかただ茉梨亜を見据えている。




「……冗談」



それは拜早の一言。

咲眞が横目に拜早を見やる。



「茉梨亜……馬鹿な事言うな」


「…馬鹿な事じゃないわ」

そこで紀一が口を衝いた。

「そっそうだよ茉梨亜、馬鹿な事だそれは!茉梨亜は死んじゃ駄目だ、こんな奴らに殺される事も無い!」

「あのな、茉梨亜」



静かに茉梨亜を見据える拜早は、白く……

綺麗だった。




そして、言葉が放たれる。







「死にたいなら自分で死ね」



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