―ユージェニクス―
「どっどうするって……何考えてるの咲眞……!」
四角いプラスチックにこれ見よがしに赤いボタンが付けられている。
咲眞の親指は既にそこへ触れており、後は押すだけ。
「きっ君は正気か!?」
「正気だよ」
紀一の叱咤もさらりと流し、改めて茉梨亜を見る。
「茉梨亜、どうする?」
「………」
茉梨亜は咲眞を睨んだ。
自分で冷や汗が伝うのが分かったし、焦燥している。
咲眞が本気かは解らない。
けれど咲眞は、やると決めたら本当にやる。
その性格を自分はよく知っていた。
「……わ、分かったわ」
「!」
茉梨亜の言葉に意外だ、と小さく驚いたのは咲眞の方で。
「殺してなんて、もう言わない。だからスイッチは押さないで…」
お互いがお互いを伺っていた。
項垂れる茉梨亜。
取り巻く三人は目を合わせ、咲眞一人息を吐いた。
「……で、それでも茉梨亜はまだ消えたい?」
茉梨亜は狼狽し下を向いたまま動かない。
「…?」
そこで微かに拜早が反応した。
それは茉梨亜に対してではなく、この状況に対してでもなく……
「(なんだ…?)」
外の小さな雑音が耳に入った。
その拜早の様子を咲眞は一瞥し、口を開く。
「……詰めだね、茉梨亜」
「え?」
言葉の意味が分からず顔を上げた。
カラン と、冷たい音が鳴る。
咲眞は既に起爆スイッチを手にしておらず、代わりにある物を茉梨亜の足元に投げていた。
「…これって」
それは、銀色の銃。
「茉梨亜の銃だよ」
“茉梨亜”の部屋から持ってきたもの。
その前は城から“茉梨亜”が持ち出して持っていた。
その前は蓋尻に捕らえられた時、城に置き去りにされていて。
元は、茉梨亜の銃。
「返すよ茉梨亜。後は君次第だ」
外の雑音が大きくなる。
「咲眞、あたし…」
「詰めって言ったでしょ?僕と……拜早が君達に関われるのはここまで」
「咲眞…どういう事だ」
「……こういう事だよ」
咲眞の台詞を最後に、部屋の均衡は破られた。