―ユージェニクス―
「……折角三人水入らずになったとこ残念だけど」
僅かな沈黙を咲眞が破る。
隣の拜早に目配せすると、どうやら彼も咲眞の意図した事を汲んだらしい。
ぎこちなく立ち上がり、口を開く。
「俺達はもうここに居られない」
茉梨亜は二人と向かい会ったまま。
動けず。
口もろくに開けず。
「ぁ…」
二人が離れて行こうとしているのが分かった。
けれどそれを引き留める事は出来なくて。
……いや、引き留める権利など自分にはないと。
分かっていて。
それが悲しくて。
嗚呼やっぱり
戻りたいのだと
二人の元に帰りたいのだと
心から実感して
「……ふ、ふ」
赤くなった目を細め、茉梨亜は声を漏らしていた。
可笑しかった。
笑っていた。
それをふと茉梨亜らしいと思い、二人は…
二人も、小さく、少しだけ微笑んで。
「…今でも僕達は君が、好きなんだからね」
「待ってるから……茉梨亜」
全て伝えた。
意思も示した。
連れ戻すという目的は、茉梨亜の否定で砕かれた。
なら、
後は 茉梨亜次第。
願うなら戻ってきて欲しいと
その思いを置いて。
――そして部屋には
茉梨亜一人。
「……ばか」
もう涙は出なかった。
「好きとか……待ってるとか……ほんと、あたしは」
一人になった部屋で、
茉梨亜はゆっくりと、足元を見る。
静かに影を落とす銀色のそれは、
「……拜早と咲眞が友達で」
静かに
「あたし贅沢者ね――」
茉梨亜の手へと握られた。