―ユージェニクス―
「…………」
そりゃもう漫画みたいなタイミングで。
のそりと身体を起こし、傍らに置いてある差し入れを一瞥する。
「……冗談にしとけよな、棗」
何とも言えない顔を作って呟いた。
肩には掛けられたタオルケット。
自分の下敷きになっていた書きかけのレポートを見て、更に溜め息を衝く。
いやその溜め息はきっと別の意味。
「まいったな…」
掛けられたタオルを背負ったまま煙草を捜した。
レポートを進める気にはならない。
というか寝起きの頭と棗の面影に、今は小難しい単語の羅列など受け付けなかった。
「俺の何がいいの、か」
自分で言うのもなんだが魅力的要素があるとは思えない。
ただ恰好付けて、仕事も思いも無茶してるだけ。
見た目だって生活だって一切気を使っていない。
それに……
棗は知っているというのに。
管原の中にいる人物を。
それが揺らがない事も。
「ちっ…」
見つけた煙草は残り一本。
火を付けたはいいものの、今の自分には軽すぎる。
そう感じて空になった箱をくしゃりと潰した。
カタ――
「…」
小さな物音を耳にする。
放っておいても良かったが……
「……さて」
目の前のレポートを再開する気もなかったし、そのまま椅子から腰を上げた。
音の鳴った所……
診療所の入口。
中には誰も居なかったが、扉の外で人の頭の様な影が動いていた。