―ユージェニクス―
「う〜〜〜〜ん」
唸っているのは明るい髪をツインテールに仕上げた少女。
どう見ても健康そうなその少女は、何故か診療所の前で難しい顔をしていた。
「迷惑かな……弾くんだって色々忙しいだろうし……」
入口の前に立ち、入ろうか入らないか迷っている様である。
どうやら中に居る人物に用があるらしい。
扉にあえて背を向け、少女は更に思案する。
「でも弾くんの事情を気にするってのも、今更っていうか……」
「おまえ、さらっと自己中な事言うなよ」
スパンと開けられた扉からよく知った男の声が降り掛かった。
「あ……っ」
男はかなりの長身で、まるで親子ペンギンの如く少女を背後から見下ろしている。
「よう……久しぶりだな、茉梨亜」
茉梨亜は流石に目を丸くし、その反応に満足して管原はニヤリと笑った。
「そっか…久しぶりなんだよね、弾くん」
ちょこんと診療所のパイプ椅子に腰掛けて、茉梨亜は少し微笑んだ。
相変わらずこの医者は、いつの訪問でも何気なく中へ迎えてくれる。
「ま、俺ァある意味久しぶりじゃねーんだがな……」
目線を逸らして管原は小さく呟く。
茉梨亜のデニムのミニスカートを目にして『本人』だと確信した様だったが。
「なぁに弾くんジロジロ見て……悪いけど何もしてあげないよ?」
「ハハハそりゃ残念。つーか茉梨亜、釈放早かったな」
管原の発言は的を得ていた。
茉梨亜にしてみれば色々と説明から入らないとなぁ、などと考えていたのだが、その必要はなさそうだ。
「流石弾くん……全部知ってる系?」
苦笑する。
「茉梨亜……俺様を誰だと思ってるんだ?有る事無い事全てお見通しだ」
無い事はどうかと思うが、管原がおどけてくれると楽だった。
黒川邸での自分……茉梨亜の事も、多少なりと分かっているのだろう。
そう思うとなんだか顔見知りとして肩身が狭かったが、それでも話が普通に出来るのは嬉しかった。
……ここへ来たのには理由がある。