―ユージェニクス―
「……あたし……」
――今でも僕達は君が、好きなんだからね――
「あたし……は」
綺麗じゃない。
元々綺麗なのかも分からない。
それでも確実に、あの屋敷で汚れてしまったのに――
「変に気負うな。あいつらもきっと、おまえと似ている」
「……っ」
「それでもおまえと居たいと言ったんだろ。おまえもあいつらと居たいのなら、もう問題なんてねーんじゃね?」
「…………ああ」
――ああ
「そ、なのかな……そうなんだ……」
二人は大切な人。
悲しくも裏切ってしまったのに。
それでも。
明るいツインテールが揺れた。
「……会いたいな」
会いたい。
「弾くん……あたし、行ってくる」
勢いよく立ち上がる。
反動で零れたのは、小さく微かに光るもの。
「おー。こけるなよ」
まるで見守る様に薄く微笑む管原を見上げ、
「弾くん……ありがとうっ!」
茉梨亜は思い切り抱き着いた。
……もといタックルした。
「ッ茉梨亜!?」
「弾くん……弾くんも負けないで……!」
そう言って素早く身を剥がすと、茉梨亜は笑って駆けていく。
手を振って……行ってしまった。
「……」
礼を言われる程の事なんてしていない。
下手くそなアドバイスと、あいつらの経緯を話しただけ。
「…これが若者の友情か?負けるねぇ〜」
――弾くんも負けないで……!
今まで茉梨亜が居たパイプ椅子にドサリと腰を落とす。
妙に疲れが出た気がした。
「いやぁ、駄目だよ俺は……もう負けてる」
天井を仰いで、ぽつりと。
「今更だよな……後悔、なんて……くだらない」
白い天井は、ただ無慈悲に思えて。
会えない人がいる。
もうずっと、一緒に並ぶ事も話をする事もしていない。
――彼女ではない。
そんな関係ではない。
ただ愛しいと思った人。
「香……俺はおまえを、止めれば良かったのか?」
もう遅すぎる疑問を口にした。