―ユージェニクス―
―3―
白い廊下は無機質を醸し出している。
だから周囲を忙しそうに歩いている白衣の人達も、機械の様に見えるのだろうか。
研究所の廊下はいつも冷たい。
棗は誰も見ていないだろうをいい事に、眠そうな顔で歩いていた。
「あーら邦浦(くにうら)サンじゃない?」
そんなだったから目の前から歩いてくる人物達に気付かなかった。
「ゲッ由希…じゃない公島サン…」
「何が『ゲッ』よ。相変わらず気の抜けた顔ね」
棗の前に現れたのはシックなベージュのスーツに身を包んだ公島だった。
「あら、あんたこそ相変わらずの年増メイクね」
相変わらず……なんていうフレーズはお互いただの挨拶。
公島と棗はそんな関係。
その横には……
「あ……お久しぶりですっ」
棗はぺこりと頭を下げる。
公島の隣には白衣を着た人物……壱村が居た。
手入れのないボブの髪に眼鏡なものだから、普段棗が知っている姿からは少し遠い。
研究員でありながらナンバー128……壱村。
「意外な組み合わせね公島サン?」
「そこで会ったのよ」
年上で役職も棗より高い公島に対しても、棗は普段通りの口調だった。
まぁ今更腐れ縁に堅苦しい言葉遣いをするつもりもない。
というのもあるし、棗の周りは敬語よりラフに話す方を良しとする人物が多かった。管原しかりである。
…だがはたから見れば研究所の廊下に専務補佐と事務監視課、白衣の研究員が並んでいるのは多少奇妙だ。
「お知り合い?」
壱村がスーツの女二人を見比べて首を傾げる。
「えぇ、昔からの顔なじみなの。そういう貴女こそこんな時間にここに居ていいのかしら棗。管原弾へのお勤めは?」
「!!」
公島が面白そうに口に衝いた台詞に赤面して、棗は公島に飛び掛かった。
「ばッ由希!!」
「何よ、いつも通ってるじゃない」
「管原弾に……通う?」
疑問符を浮かべた壱村に対し、棗は両手を振って何故か弁解する。
「ちっ違うんですよ!私監視課だから担当が弾で……」
「そう……」
壱村はどこか寂しそうに口角を上げた。