―ユージェニクス―
「あら、壱村さんご存知?管原弾」

棗に引っ付かれたまま公島は軽く問う。

棗は顔の筋肉を最大限に使って、何か言いにくそうで言いたそうなものを訴えていた。


「勿論知ってますよ。有名ですから」

色々と。

そう付け加えて壱村は歩を進める。


「じゃあ私はこれで。棗ちゃんもお疲れ様」

見た目に合わない綺麗な笑顔を浮かべて、壱村は背を向けた。



「何棗、どうしたのよ」
「……なんでもない。ねぇ由希姉」

公島から離れ、棗はどこか不満そうな顔を浮かべる。

「壱村、さん……もう仕事、終わったの?」

「そうみたいね。さっき、私のやるべき事は一段落着きましたーって言ってたから」

「……そっか」

どこか苦々しく安堵した棗の顔を、公島は訝しげに覗いた。


「変な棗、まぁいつもの事かしら?」
「何ですって?」

「そうだ、これ極秘なんだけどあんたは知っててもいいわよね」

今度は棗が首を傾げた。

「何を?」

「プロジェクトの最終段階の開始をよ。咲眞くんもナンバーだったし、一応伝えておこうと思って」


言われて、ぱちくりと目を開く。

弟……咲眞は確かにナンバーだった。
だがナンバーの445番は外されたと聞く。
なら関係するのは……


「400番台の良好なナンバーを集めるそうよ。既にシティリアートは協力済み」

「集めるって……」

研究所のプロジェクト。
それは研究員ではない棗は勿論、専務補佐の公島も詳しくは知らない。

ただ公島は役職が故、観崎からのプランを粗方聞いているのだろう。


「ねぇ……そのシティリアートって子、大丈夫なの?確かまだ子供でしょ?」

「さぁ、でも観崎先生が保証してるんだから……あ」

そんな事を言いかけて公島は顔を上げる。

廊下の向こう側から派手な金髪がやって来ていた。

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